2010年 01月 29日

一枚絵で書いてみM@STER投稿SSです。

お久し振りです。小六です。
一枚絵で書いてみM@STERに投稿させて頂いたSSです。

以下、SSとなります。







「あれ、千早いたんだ」
「撮影お疲れ様、真」

 僕の声に気付いたのか、千早はゆっくりとこちらを振り返った。
 右手には携帯、おそらく誰かと連絡をとっていたのであろう。
 スタッフにもらったスポーツドリンクを足元に置き、僕は千早の方へ歩み寄った。


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「いったい誰と話してたの」
「音響担当の人。ちょっとした業務連絡よ」
「ふぅん」



 僕は千早の携帯を覗き込む。
 飾気のない壁紙にスケジュール、千早らしい。
 千早はパチンと携帯を閉じた。






「それにしても大変そうね」
「全くだよ」

 汗で濡れたパーカーをぱたぱたと動かして空気を入れる。撮影の合間だから着替えることもできない。

「それにしてもよく分からない撮影だよね」
「どの辺りが?」
「ここのところ、ずっと撮影されているのが僕だけなんだよ」



    ―――― Mistery In Potable ――――



「アクション映画なんだから、それが普通じゃない?」
「そうなんだけどね。うーん、CGでも使っているのかな」
「主役だから、きっと単独撮影が多いだけだと思うけれど」
「相手役とかいてもいいはずなんだけどね」

 スパイものの映画。スパイは暗躍してミッションをこなすもの。人との接触は極力ない方が好ましい。しかしそれは映画の中だけでの話で、普通は立ち回りや演技指導といったように、色んな人が入り混じって行われるものだ。この映画にはそれがない。故意的にも思えてくる位に。それが不思議だった。
 人との接触を隔絶された撮影。


「千早は『声』だけの出演だからそんな気楽に言えるんだよ」


 僕と千早はとある映画の撮影に駆り出された。僕は秘密結社のスパイという役柄で、千早は映画の主題歌を担当するらしい。歌唱力を売り物にする千早と、運動神経を売り物にする僕。この監督の配役はあながち間違えていない。むしろ正解だ。
 クールな印象だから、僕よりスパイに向いているんじゃない?そう千早に尋ねたことがある。


「私には私の仕事があるから」

 何とも彼女らしい回答だった。確かにスタントアクションが入ることを考えれば、僕の方が適役だったのかもしれない。
 僕はまだ汗で湿ったパーカーをはためかせている。そうでもしないと汗ばんだパーカーがぴったりと身体に張り付いてしまうからだ。僕ははぁと深くため息をつく。
 それを見た千早はくすくすと笑った。まるで高みの見物だ。そんな彼女は涼しげにジャケットを着こなしている。ある程度服が乾いた後、僕はテーブルにおいてあったスポーツドリンクを口にした。


「それにしても監督不在の撮影なんて聞いたことないよ」
「でも、指示はきちんと出されているんでしょう?」
「うん。びっくりする位に的確」


 監督の名前が隠されている映画なんて初めてだ。
 映画撮影はそれなりにこなしている。だから、この手のアクションはあの監督が好きなものだとかそういうことも分かるようになっているはずだ。だけど、今回に限ってその勘が働かない。今までにない撮影。だけどびっくりする位に的を得た指示と表現が気に入っている自分がいる。僕のドッペルゲンガーがこそこそと僕の見ていないところで監督をしているのではないか、そんな気さえ覚えた。


「とりあえずスパイなんだから、スパイらしくターゲットの情報を見つけることに専念したら」
「ターゲットの情報を見つけるよりも、この映画の首謀者の正体を掴む方がよっぽど難しいよ」

 僕は腕を組んでううんと唸った。だからといって監督の正体なんて分かるはずもなく。
 そんな僕の姿をみて、千早はくすくすと笑った。子供のように透明で透き通った声。

「まるでこの映画の監督が犯人みたいに言うのね」
「だってそうじゃないか」
「きっとそのうち正体を明かすと思うわ。そんな性格だから」


 千早はにっこりと笑った。そのまま数秒間。
 しばらく待ってはみたけれど、千早は口を開けない。ただ子供のような表情で僕を眺めているだけだった。
 千早は何かを知っている。だけどそれが何かなんて僕は知らない。


「分かってるなら教えてくれたっていいのに」
「そうね…これくらいなら問題ないかしら」

 そう言って千早は携帯を操作して、ある文面を僕に見せた。


  『                  
     men in black
     independence day
     predator

     隣人は静かに笑う   
                    』



「……なにこれ?」
「ちょっとしたナゾナゾじゃない?」

 そうとぼけた素振を見せているが、きっと千早はこの文面の意味を知っている。秘密主義の彼女が自分の携帯を見せた位だ。きっと今の僕には理解できないと踏んでいるのだろう。僕の頭で普通に考えても出てこない解答なのだろう。突飛なものだからこそ、ナゾナゾのように出題して、僕が降参した後、答を教えるときの快感が期待できる。そんな感じの答えのはずだ。
 監督の正体が分かった後、千早が嬉しそうに種明かしをする様子が目に浮かぶ。

「千早…この映画監督と連絡がとれるの?」
「まぁ、真よりは。長い付き合いだから」

 後でその内容を真の携帯にも送っておくわ。そう言い残し、千早は不敵に笑いながら僕のもとを去った。

「いったい何なんだよ…」


 僕は誰もいなくなったソファに腰掛けた。しばらくして千早から先ほどの文面がメールで届く。
 見覚えのある映画の題名。だけどそれが一体何を意味しているのだろうか。

 その後も撮影は続き、千早が言ったとおり、見せ場となるシーンでは僕以外の俳優が撮影に加わった。後でプロデューサーに聞くと、とても有名な俳優だったらしい。食事に誘われて、この映画について色々と話したこともあるのだけれど、千早の謎かけについてずっと考えていた僕の頭にはあまり記憶に残らなかった。
 白のジャケットが妙に似合う男性だな、というおぼろげな印象だけが頭の片隅に残っている。

 知り合いの芸能人や学校の友人にそれとなく尋ねてみたけれど、結局分かるのはその映画のあらすじと四方山話だけ。ヒントなしで解答にたどり着くことが不可能に思えてきて、ベッドの上で煩悶した。こんな姿を千早には見せられない。きっとしたり顔で「まだ考えてるの?」と言われることが目に浮かぶから。

 そういえば、と思い返す。どうして僕はあの俳優さんの顔ではなく、白のジャケットが強く印象に残ったんだろう。それが第一歩だった。それから先は驚くほどすんなりと答えにたどり着くことができた。
 会って問いただすこともできたけれど、何故かそうすることがはばかられた。僕の考えが合っているなら、きっと向こうから姿を現してくれるから。


 そうこうしている間に月日は流れていって、クランクアップ間近となった頃、千早から監督が僕に会いたいという伝言を受けた。監督曰く、「そろそろちゃんと主役と話してみたい」とのこと。やっとその正体を見せてくれる。

 僕だって話したいことは色々ある。監督がいる部屋のドアを僕はノックした。

「はい、どうぞ」

 ドアの向こうから聞こえる透き通った声。そっとドアを開ける。
 部屋にはソファとテーブルが置かれていて、一人の女性がソファに座っていた。こちらからは後姿しか見えない。その女性は今どんな顔をしているのだろう。そんなことに思いを馳せながら、僕はドアに背を預ける。
 しばらく後、女性は振り返りもせずに僕に尋ねた。

「気付いたのはいつ?」
「つい最近だよ」

 正体を隠した女性のヴェールを乱暴に剥がすことは無粋だろう。
 だから僕は彼女に近づきもせず、そのままの位置で彼女に話しかけた。

「つまり、こういうことなんですよね」

 飲みかけのスポーツドリンクを足元に置き、僕は千早のくれたナゾナゾの答えをゆっくりと話し出した。



 黒い服を着るのは、スパイ役の人間。

 お気に入りの人や重要な役の人に黒い服を着せていたんじゃない。それが僕の勘違いだった。
 僕は映画での配役がスパイだったから黒いパーカーを着せられていたけれど、別にスパイが映画の中だけとは限らないわけだ。つまりこの撮影の中にスパイがいた。配役の情報を一つ洩らさず監督に伝えるスパイ。
 そう考えると、そのスパイも黒い服を着ていたことになる。

「そうね。これ位意識的にしていないと、誰かに話してしまいそうだったから」
「意外と弱気なんだね」


 そう。結局監督はそのことを誰にも話さなかった。

 いや、「作品」に深く関る人には知らせていたみたいだったけれど、それ以外の人には洩らさなかった。
 「映画」はあくまで「映画」として撮影された。そうしなければいけない理由があったんだろうね。
 詳しい理由は分からないけれど、後で律子から聞いたよ。以前組んでいた音楽プロデューサーと意見が一致しないで、その子の単独名義で新曲を発表する予定のアイドルがいたらしいんだ。たぶん提携している音楽会社から独立したレーベルを作るつもりだったんじゃないかな。
 その子は昔から頑固者でね。もうちょっと落ち着いて考えればよかったのに、とは思ったけれど僕もアイドルの端くれなんだ。頼まれた仕事は喜んで請けるよ。無粋な詮索なんてしないさ。

「私から教えたことはないわ。気付いた人に尋ねられれば、イエスと答えたけれど」
「相変わらずひねくれた性格してるね」  僕は苦笑いした。

 僕が所属している事務所はみんな優しくていい子ばかりなんだ。騙し合いや抜け駆けなんてする友人なんていると知ったら、何事かと心配する人達ばっかりだ。それを知っているからこそ、その子はその計画を事務所の友人に伝えなかった。ましてや、計画に関わっている僕なんかには伝えられなかったんだろうね。

「どう切り出したらいいか分からなかったのよ」
「いつも回りくどい言い方ばっかりしてるせいだ」
「これから直していこうと思うわ」  女性の声はどこか嬉しそうでもあった。

 その子の計画はこうだ。
 「映画」という名目で一つの映画を一本作って、それを素材にして1時間のPVを作る。スケール大きいね。
 映画そのものがPVだなんて信じられないけれど、こう考えると合点がいくんだよ。


    この「作品」の主役は僕じゃない。本当の主役はその作品を作ろうと計画したその子だったんだ


 てっきり主役だと思って舞い上がっていた僕からすれば、とって喰われた感じだよ。
 その子からすると、僕の演技を喰ってしまうような歌を歌える自信があったんだろうね。


 それでね、これまでの話って全部この映画の監督にまつわるヒントだった。
 ということは最後の題名も監督にまつわるヒントのはずだ。つまり監督は僕の「隣」で「笑って」いた「人」。

 その子は計画が成功するまで首謀者であることを隠しながら、僕にただの「隣人」であるかのように振舞っていた。確かに犯人なら「自分が犯人です」なんて言わないもんね。笑うことしかできないわけだ。


 僕が「その子」の正体が知りたいとか、そんなことを話した人は一人しかいないんだ。
 よく軟派な軽い奴だとか言われるけれど、僕はそういう仕事に関する愚痴はほとんど言わない主義なんだよ。
 そうだなぁ…言うなら心を許した親友位かな。


「そう」

 未だ後ろを向いたままの女性は、ガラスのように透き通った声でそう呟いた。

「うん。そうなんだよ」
「それで、貴方の言う「犯人」は見つかったのかしら」
「うん、今からその子に電話をかけようと思うんだ」


 僕はポケットから携帯を取り出して、迷うことなく番号を打った。11文字のパスワード。
 発信ボタンを押して数秒後、テーブルに置いてあった携帯が振動する。青い携帯。

 背中を向けた長髪の女性は震える携帯をとって、携帯を開いた。そしてそのまま通話を遮断する。
 わざわざ携帯で話す必要ないものね。僕はソファ越しに彼女の顔を見遣った。


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「正解よ、真」
「……まったく。僕ってそんなに信用ないのかな」
「軟派というよりも、猪突猛進な感じかしら」
「言うべきことと言っちゃダメなことの区別位はつくよ」
「自覚がないって怖いわね」

「ああそう」


 そういうところがひねくれてるっていわれるんだよ。
 思わず僕は肩をすくめた。




「それで撮影は続けるの?監督?」

 いや、と僕は言葉を訂正した。

「まだ僕を使ってくれるかな?千早?」

 ソファ越しの女性は嬉しそうな顔をして頷いた。






おしまい
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by 6showu | 2010-01-29 23:05 | SS


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